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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)1570号 判決

原告 破産者東京段ボール株式会社 破産管財人 松久利市

被告 株式会社 篠原商店

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金百八十一万八千五百六十四円及びこれに対する昭和三十四年五月十七日から右完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因及び被告の抗弁に対する答弁として次のように述べた。

「一、破産者東京段ボール株式会社は昭和三十一年三月三十一日支払を停止し、昭和三十三年三月四日当裁判所において破産の宣告を受けた。

二、被告は昭和三十一年三月二十二、二十三日の両日ごろ破産会社に無断でその所有の別紙第一目録〈省略〉記載の原紙を持去り、同年四月初めごろこれを他に売却し、破産会社に対し当時のその時価と同額の九十七万千八百八十六円に相当する損害を与えた。

三、仮に無断で持去つたのでないとすれば、破産会社は、破産債権者を害することを知りながら、(イ)同日ごろ被告に対し同年三月二十二日借受の二十万円、同月二十三日借受の六十万円の各債務の担保として本件原紙を引渡し、(ロ)右各債務の弁済期である同月末日これを右各債務の弁済に代えて譲渡したものであり、被告は支払停止の事実を知りながら、右代物弁済を受けたものであるから、右各行為を破産法第七十二条第四号((イ)、(ロ))第二号((ロ))、第一号((イ)、(ロ))により否認する。

四、また、破産会社は同月二十一日ごろ、破産債権者を害することを知りながら、その訴外神谷酒造株式会社に対する別紙第二目録〈省略〉記載の売掛金債権を被告に対し、同月十日借受けた弁済期同年四月十日の百五十万円の債務の内同額の弁済に代えて譲渡し、被告は当時右訴外会社からその弁済を受けたが、右代物弁済は破産法第七十二条第四号、第一号に該当するから、これを否認する。

五、よつて、前記不法行為による損害賠償金または否認権行使による本件原紙に代わるその価格の返還並びに右弁済受領金額の返還及び右各金額に対する本件原紙処分、本件債権弁済受領以後の日から右各完済に至るまで法定の損害金の支払を求める。

六、原告は第一回債権者集会以前である昭和三十二年三月十五日本件訴状記載請求原因と同様の本件原紙引渡に関する法律行為及び本件債権譲渡の否認による本件原紙の返還とその不能の場合の損害賠償、本件債権の取立の禁止または弁済受領金の返還の訴提起について破産裁判所の許可を得て当裁判所にその訴を提起し、右訴は休止期間満了により取下とみなされたが、右許可の効力は存続しているし、仮にそうでないとしても、原告は昭和三十五年十月二十一日本訴提起についてあらめて破産裁判所の許可を得たから、本訴は適法である。

七、破産会社が本件原紙処分の事実を処分当時知つていたことは知らない」

被告訴訟代理人は「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、その理由として「本訴は債権者集会の決議を経ていないから(監査委員は置かれていない)、不適法である。原告主張六の事実は認めるが、裁判所の許可を得て提起された訴訟が休止期間満了により終了した以上、第一回の債権者集会後に訴を提起するには債権者集会の決議を経るべきであり、急迫な必要もないのに裁判所の許可を得ても、訴は適法にはならない。仮に右許可により訴が適法に提起されたものと解するとしても、その許可を得ていない訴変更後の請求は不適法である」と述べ、本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として「原告主張一ないし五の事実中破産宣告の点は認めるが、その余の事実は否認する。被告は破産会社から段ボール製品を買入れていたに過ぎない。仮に原告主張のような事実があつたとしても、破産会社は本件原紙処分の事実を処分当時知つており、不法行為に基く請求はおそくとも昭和三十四年四月末日消滅時効完成により消滅したし、否認権に基く請求は、適法とすれば、訴提起に関する裁判所の第二回の許可があつたとき提起されたものと解すべきであり、そうでないとしても、訴の変更の申立書が提出された昭和三十五年五月二十六日提起されたものと解すべきであるが、本件否認権は破産宣告の日から二年経過した昭和三十五年三月四日消滅時効完成により消滅したから、これを援用する」と述べた。

証拠〈省略〉

理由

原告主張六の事実は当事者間に争ないところ、訴提起に関する破産裁判所の許可は、これに基いて提起された訴が休止期間満了により取下げたものとみなされても、その効力を失わないし(再訴の提起が第一回の債権者集会後でも、その決議または監査委員の同意を要しない)、その対象となつた請求と基礎を同一にする請求についても効力が及ぶものと解すべきであるが、原告の請求はいずれも右許可の対象となつた請求と基礎を同一にすることは明白であるから、本件訴はいずれも適法であり、被告の本案前の抗弁は採用することができない。

次に、本案について判断する。成立に争のない乙第五、六、七号証、第九、十号証、第十一号証の一ないし六及び被告代表者篠原俊男の本人尋問の結果と対比すると、原告主張二、三、四の事実に関する証人小島三郎の証言は信用できないし、甲第一号証の一ないし八、第四、五号証、証人高島栄、五味省三、原吾三郎の各証言も右各事実を認めめさせるに足らず、他にこれを認めさせるに足る証拠はない。

よつて、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 田嶋重徳)

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